量子の不思議の1つに「重ね合わせ状態」というのがあります。 これは量子が私たちが普段見ている「物」とは明らかに異なる性質を持っている例の1つです。 ここでは、量子の「重ね合わせ状態」について少し紹介しましょう。
じゃんけんの手は「状態」
「じゃんけん、ポンッ!」、あなたは何を出しましたか? グー、チョキ、それともパーだったかな? じゃんけんで使う手はこの3種類なので、出した手はこの3つのいずれかになっています。 この出された手がどのような手なのかと言うのを、物理の用語を使うと「手の状態」と言います。 グーを出しているときの手の状態は「グー」です。

量子の手の状態
私たちの世界では、グー、チョキ、パーのどれかしか出せませんが、「量子の手」は私たちとは異なる性質を持っています。 例えば、量子の手だと下の図のような「手の状態」が出せるのです。

どれも、うっすらしていて幾つかの手が重なっているようですね。 1番左はグーとチョキの半分半分、真ん中はほとんどパーですが、少しチョキが入っています。 1番右はグーチョキパーが全部混ざっていますね。 これが量子の手の状態なのです。 幾つかの別の状態を同時に重ねたような、このような手の状態が量子には存在します。 このような手の状態を量子の「重ね合わせ状態」と言います。 1番左はグーとチョキの重ね合わせ状態、1番右はグーチョキパーの重ね合わせ状態です。
測定
この重ね合わせの状態は、実はとても恥ずかしがり屋です。 人間がその状態を知ろうとすると直ぐに重ね合わせをやめてしまいます。 例えば、グーとチョキが半分半分の重ね合わせの手に袋を被せて、誰も見れないようしてあげるとこの重ね合わせの状態を保てるのですが、袋を取って「どの手なの?」と見たとたんに、手がグーかチョキのどちらかに変化してしまいます。 人間以外にもカメラや別の方法で「なんの手だ?」と手の状態を調べた瞬間に量子の手は重ね合わせをやめてしまいます。 この重ね合わせを壊してしまう行為のことを物理学者は「測定」と呼びます。 見るだけで手の状態が変わってしまうって、すごく不思議ですね。

実際の量子の重ね合わせ状態
では、実際の量子で重ね合わせ状態を見てみましょう。 量子の1つである電子には「スピン」という性質があります。 これは磁石のN極やS極のように向きがあります。 つまり手にはグーチョキパーがあったように、電子には「上向きの状態」と「下向きの状態」の2種類があるとしましょう。 先程のように量子の重ね合わせで電子の状態を作ると、例えば「80%上向きで20%下向き」の電子が作れたりするわけです。

スピンを持った電子は磁石から力を受けます。 これが電子スピンの状態を調べる「測定」になるのです。 測定された後、電子は上か下を向くのですが、どちらになるかはその時の運です。 ですから80%の確率で上に、20%の確率で下を向いた電子が出てきます。 つまり「80%上向きで20%下向き」の電子を100個用意して、1個ずつ測定をしていくと、おおよそ80個が上向き、そして20個が下向きで出てきます。 ですが、いつ上を向くか下を向くかはコインなげのようにランダムに決まります。 このように重ね合わせの状態が測定によって、どちらかになる確率を与える法則をボルンの確率規則と呼んでいます。

色々なところで活躍する重ね合わせ
重ね合わせ状態は、量子コンピュータ、量子センサ、量子シミュレーションなど、あらゆる量子テクノロジーで使われている最も重要な量子の性質の1つです。 ですが、この私たちの常識とはかけ離れた量子の性質は初め多くの物理学者を悩ませました。 そして物理学者が納得するまでに長い年月と多くの実験が必要だったという歴史もあります。
