イオントラップはその名のとおりイオンをトラップする(つかまえる)ことのできる実験器具です。イオントラップを使うとたった1粒のイオンの量子な世界を観察することができます。
原子、分子、イオンも量子の仲間
私たちの身の回りにも実はたくさんの量子が存在します。 例えば、空気や水を構成する原子や分子といったものも量子の性質を示すものの1つです。イオンもその仲間です。 しかし、我々が普段生活するような環境ではさまざまな雑音や効果に埋もれてしまい、原子やイオンといった粒子の量子らしい様子を直接目にすることはなかなかできません。ではどのようにすればそれを観察することができるのでしょうか?そのためには膨大な数の原子の中から1粒だけを取り出して、それを思った通りにつかんだり動かしたり測定したりする必要があります。イオントラップはそのような目的で50年以上も前に発明された実験装置で、今もなお最先端の科学分野で広く使われています。

どのようにしてイオンをトラップする?
イオンは原子の仲間のうちの1つで、プラスやマイナスの電荷を持っている粒子のことを指します。 イオンのような電荷を持った粒子は周囲の電場にとても敏感に応答する性質を持っています。 電場というのは電荷を持つものを押したり引っ張ったりするような力を生みます。 例えばプラスの電荷を持つイオンは電場が小さな場所を探して自ら移動することになります。 イオントラップはこれをうまく利用してイオンを捕まえておくための装置です。 イオントラップを使うと電場の大きなところと小さなところを組み合わせて(目には見えない)箱のようなものを拵えることができます。その中にイオンを閉じ込めておくわけです。通常、イオントラップは真空中(宇宙空間のように何もない空間)に設置されていて、イオンを他の粒子に邪魔されないとてもクリーンな環境に静止させて観察することができるのです。
量子コンピュータや原子時計への応用
このようにしてトラップされたイオンに対してレーザー光を当てると、イオンを自由自在に操ることができます。通常、イオンや原子は電場や磁場といった周りの環境から影響を受けることが知られていますが、イオントラップの中ではそういった外場が無視できるほど小さな空間にイオンを準備することができます。そのため、イオンの動きや内部の状態をとても精度良くコントロールできるのです。最新の研究ではこれを利用してイオンをたいへん正確な原子時計として機能させたり、量子コンピュータの開発に役立てたり、とさまざまな分野で応用されていて今後も量子の分野での活躍が期待されています。
