NMR=核磁気共鳴。 物質中にある原子の「スピン」の信号をキャッチすることで、興味対象の物質にどんな分子や原子があるかを分析することに利用されています。 人間の体の中の分析も可能で、MRIという医療診断ツールの原理にも使われています。
スピンの信号をキャッチ
物質は原子からできています。原子の中心には原子核がありますが、「スピン」と呼ばれるとっても小さな磁石としての性質を持っています。スピンは磁場の中に置かれるとコマのような首振り運動をします(図の左側)。首振りの回転周波数は原子の種類や磁場の強さによって決まります。例えば、水素核スピンは3000ガウス(ホームセンターで売られているマグネットの中でも強力な部類)の磁場では、1秒間に1千3百万回転します。この回転に共鳴する電磁波、AMラジオより高く、FMラジオより低い周波数である13MHzの電磁波を吸収したり、放出したりします。この現象を核(Nuclear)磁気(Magnetic)共鳴(Resonance)、NMRと呼びます。この信号をキャッチすることで分析や医療診断に用いることができます。

NMRで物質を分析
1938年にラビがNMRを発見し、1946年にはパーセルが固体の、ブロッホが液体のNMR信号をキャッチすることに成功し、その後、様々な物質の信号が調べられました。その中で、同じ磁場でも分子の違いによって共鳴する電磁波の周波数がわずかに違うことがわかり、逆にその電磁波を調べることで物質中にどんな分子がどれだけ含まれているかを突き止める分析法になることがわかりました。現在では、新材料の合成や、蛋白質(たんぱくしつ)の研究、創薬などになくてはならない存在として広く用いられています。
MRIで医療診断
人間の体の60%以上は水から出来ていますので、その水素核スピンはもちろんNMR信号を出します。頭から足まで少しずつ弱くなるような磁場をかけてやると、頭から足にかけて少しずつ低い周波数の信号を出します。逆にその電磁波信号を分析することで、どの高さの部位にどれだけ水が多く含まれているかを知ることができます(図2)。このような原理で人体内部の水をイメージングすることができます。磁気(Magnetic)共鳴(Resonance)イメージング(Imaging)、MRIと呼びます。体の奥深くにある内臓の様子などが見れるようになり、現在では様々な病気の診断に用いられています。

量子技術でNMR/MRIを超高感度に
NMRやMRIは原子レベルでの分析が可能ですが、感度が低いと言う問題があります。現在、電子を使ったり、レーザーを使ったりする量子技術を用いてスピンの向きを揃えることで超高感度にする研究が行われています。抗がん剤が効いたか効いていないかをチェックする診断を高速化できるようになるなど、様々な革新的な診断が可能になると期待されています。
