― 邪魔者が量子技術に貢献 ―
物質の中には本来の構造とは異なる余計なものが紛れ込むことがあります。これを不純物と呼びますが、実はこの「邪魔者」が量子技術において重要な役割を果たすことが分かってきました。特に、不純物が持つ電子スピンは、量子センサや量子通信などの量子技術への応用が期待されています。
物質の中には本来の構造とは異なる余計なものが紛れ込むことがあります。これを不純物と呼びますが、実はこの「邪魔者」が量子技術において重要な役割を果たすことが分かってきました。特に、不純物が持つ電子スピンは、量子センサや量子通信などの量子技術への応用が期待されています。
不純物は、本来の結晶構造にとっては余計な存在です。例えば、ダイヤモンドは炭素原子だけでできていますが、100万個から1億個に1個くらいの割合で窒素などの別の原子が紛れ込むことがあります。このような不純物は、物質の性質を変え、半導体などデバイスの性能を悪化させる原因になることもあります。
このような不純物はしばしば余分な電子を持っています。「スピン」のトピックで学んだように、この余分な電子はスピンを持っています。そして、このスピンの向きを反転させたり、横向きにしたりするためには、マイクロ波を当てる必要があります。
なぜマイクロ波なのか?
スピンの向きを変えるには、そのスピンが持つエネルギーに対応する電磁波を当てる必要があります。
電子スピンの場合、このエネルギーはGHz帯(ギガヘルツ帯)の周波数、つまり、携帯電話やWi-Fiと同じくらいの周波数のマイクロ波に対応しています。そのため、マイクロ波を照射することでスピンを操作できるのです。
量子技術に応用するためには、スピンの状態をしっかりと初期化(確実に「上向き」や「下向き」にそろえること)する必要があります。しかし、マイクロ波はエネルギーが低いため、スピンは周囲の熱(熱エネルギー)の影響を受けやすいという問題があります。つまり、スピンを正確に初期化するためには、極端に温度を下げる(極低温にする)必要があるのです。通常、この温度は数ケルビン(絶対零度に近い温度)まで下げなければなりません。
ところが、量子技術の世界では、「邪魔者」のスピンが有用な働きをすることが分かってきました。その代表例が、ダイヤモンドの窒素-空孔中心(NVセンター)です。本来あるはずの炭素原子が1つ抜け落ち(空孔)、その隣に窒素原子が入り込んだ構造を持つものをNVセンターと呼びます。このNVセンターの電子スピンには、ある特別な性質があります。それは、緑色の光を当てると、スピンの向きを揃えることができるというものです。つまり、極端に冷やさなくてもスピンの初期化が可能なのです。この性質を利用し、NVセンターを量子センサや量子通信の基盤技術として応用できることが明らかになってきました。